香川県歯科医師会では令和元年度より県内157施設の会員の協力で合計1900人以上の方にオーラルフレイルのスクリーニング検査を行いました。対象は歯科診療所を受診した70歳以上の希望者でオーラルフレイル判定の該当者には改善プログラムを行いました。
それらの調査データと、医科の診療日数、診療費、調剤費、要介護度等の関連分析を行ったところ大変興味深い結果が得られました。
目次
オーラルフレイルとは
オーラルフレイルは、口の機能の健常な状態(いわゆる「健口」)と「口の機能低下」との間にある状態です。
歯の喪失や食べること、話すことに代表される様々な機能の「軽微な衰え」が重複し、口の機能低下の危険性が増加しますが、改善も可能です。
むせる、食べこぼす、飲み込みにくいなどの「ささいな衰え」を放置するとやがて全身のフレイルのリスクが高まることがわかってきました。
どのくらいの人が該当するの?
- 全体の約17.4%がオーラルフレイルと判定されています。
- 70~74歳では約10%です。
- 85歳以上では約37.9%と高率です。
- 年齢が上がるほど、オーラルフレイルの割合は増加しています。
スクリーニング調査項目3項目以上該当者
| 男性 | 女性 | 全体 | |
|---|---|---|---|
| 調査件数 | 647人 | 1,062人 | 1,709人 |
| 該当者 | 129人 (19.9%) |
169人 (15.9%) |
298人 (17.4%) |
| 非該当者 | 518人 (80.1%) |
893人 (84.1%) |
1,411人 (82.6%) |
年齢別
年齢別オーラルフレイル割合
- 年齢別において、70~74歳の10.0%にし85歳以上では37.9%と高率となり、高齢化とともに口の機能が衰えていくことが示唆された。
オーラルフレイルになるとどうなるの?
オーラルフレイルと医科診療日数、医科診療費との関連
- 年間診療日数は非該当群より約5日多いです。
- 年間医療費は非該当群より約57,800円高いです。
医科診療日数(年間)
- オーラルフレイル該当群が予備群より4.0日、非該当群より5.0日多い。予備群は非該当群より1.0日多い。(中央値での比較)
- Steel-Dwas検定
非該当群⇔該当群 p=0.0106
予備群⇔該当群 p=0.0484
医科診療費(年間)
- オーラルフレイル該当群が予備群より53,000円、非該当群より 57,800円高い。予備群は非該当群より4,800円高い。(中央値での比較)
- Steel-Dwas検定
非該当群⇔該当群 p=0.0003
予備群⇔該当群 p=0.0020
オーラルフレイルと要介護度との関連
- オーラルフレイルに該当する人は、非該当の人に比べて要介護認定を受けている割合が高いです。
- 該当群では中・重度(要介護2~5)の割合が多いです。
- 平成元年度から2年間の追跡調査の結果、該当群は非該当群や予備群に比べて 要介護発生リスクが高いことが分かりました。また予備群も、非該当群より要介護になるリスクが高い傾向にありました。
オーラルフレイル判定別の要介護度の割合
- オーラルフレイル該当群は予備群、非該当群に比べて要介護者が多かった。予備群も同様に、非該当群に比べて要介護者が多かった。
- Steel-Dwas検定
非該当群⇔予備群 p<0.0001
非該当群⇔該当群 p<0.0001
予備群⇔該当群 p<0.0001
オーラルフレイル判定別の要介護度の程度
- オーラルフレイル該当群は予備群、非該当群に比べて中・重度(要介護2~5)が多かった。予備群も同様に、非該当群に比べ中・重度(要介護2~5)が多かった。
- Steel-Dwas検定
非該当群⇔予備群 p<0.0001
非該当群⇔該当群 p<0.0001
予備群⇔該当群 p<0.0001
オーラルフレイル判定別要介護発症状況
(令和元年度から2年間の追跡調査)
- オーラルフレイル該当群は非該当群、予備群よりも要介護発生リスクが高く、予備群もまた非該当群より要介護発生リスクが高かった
オーラルフレイルと認知症との関連
- オーラルフレイル該当群は、非該当群や予備群に比べて 認知症の発症リスクが高いことが示されました。
オーラルフレイル判定別認知症発症状況
(令和元年度から2年間の追跡調査)
- オーラルフレイル該当群は非該当群、予備群よりも認知症発症リスクが高かった
オーラルフレイルと死亡発生リスクとの関連
- オーラルフレイル該当群は、非該当群や予備群に比べて 死亡リスクが高いことが確認されました。
オーラルフレイル判定別死亡発生(生命予後)状況
(令和元年度から2年間の追跡調査)
- オーラルフレイル該当群は非該当群、予備群よりも死亡発生リスクが高かった
オーラルフレイルを予防するには
予防プログラムの紹介
オーラルフレイルを防ぐためには、毎日の小さな積み重ねが大切です。
香川県歯科医師会では、深呼吸や開口訓練、唾液腺マッサージ、発声練習、早口言葉など、誰でも自宅で取り組める改善プログラムを紹介しています。
詳しい方法やオーラルフレイルチェックシートはPDF をご覧ください。
改善プログラムの効果
- 改善率は全体で34.1%です。
- 70~74歳では60%が改善しています。
- 高齢になるほど改善は難しい傾向があります。
実施前後オーラルフレイル判定割合
| 実施件数 | オーラルフレイル (3個以上) |
予備軍 (1~2個) |
危険性低い (0個) |
|
|---|---|---|---|---|
| スクリーニング 1回目 |
1,079人 | 298人 (17.4%) |
1,010人 (59.1%) |
401人 (23.5%) |
| スクリーニング 2回目 |
88人 | 58人 (65.9%) |
29人 (33.0%) |
1人 (1.1%) |
| スクリーニング 3回目 |
45人 | 22人 (48.9%) |
23人 (51.1%) |
0人 (0.0%) |
スクリーニング項目
①歯数、②咀嚼能力、③舌圧、④滑舌、⑤硬いものが食べにくい、⑥お茶等でむせる
(3個以上該当:オーラルフレイル、1~2個該当:予備群、0個:危険性低い)
改善プログラムの効果(全体)
- 1回目のスクリーニングでは17.4%がオーラルフレイルの判定となった。
- 4週間の改善プログラムを実施し2回目のスクリーニグを実施した人の内34.1%に改善がみられた。
年齢別
改善プログラムの効果(70~74歳)
- 70~74歳では、スクリーニング1回目で10.0%がオーラルフレイルの判定。改善プログラム実施4週間後のスクリーニング2回目では60.0%に改善が見られた。
改善プログラムの効果(85歳以上)
- 85歳以上では、スクリーニング1回目で37.9%がオーラルフレイルの判定。改善プログラム実施4週間後のスクリーニング2回目では17.4%に改善が見られた。
もっと知りたい!
オーラルフレイルと全身の健康の関係
日常のちょっとした衰えや習慣が、医療や介護、健康寿命に深く関わっています。ここでは、香川県歯科医師会がまとめた資料をわかりやすくご紹介します。
オーラルフレイル予防プログラム別冊版
オーラルフレイル予防プログラムの内容を詳しく紹介した資料です。口腔体操やマッサージなど、日常で取り入れやすい取り組みをイラストや解説を交えて分かりやすくまとめています。
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